インサイド・ヒーローズ

vol.3

報道マンが挑む「空間ドキュメンタリー」

内田昭彦の写真

NHKグローバルメディアサービス
プロデューサー

内田昭彦 うちだ あきひこ

プロフィール

ご来場いただくみなさまへ

テーマ館では、みなさまがシードペーパー🄬から育てた植物の投稿写真がシンボルツリー『きぼうの樹』となり、展示を鮮やかに彩ります。植物を育て、写真を撮り、投稿する――みなさんの一連の行動が、GREEN×EXPO 2027を共につくる大切な要素になるのです。ぜひEXPOの一員として、この空間に飛び込んできてください。きっと、あなたと植物の間に生まれる一つひとつの小さなドキュメンタリーが、「幸せを創る明日の風景」へとつながっていくはずです。

二つの花博を結ぶ、映像の軌跡

―これまでの歩みについて教えてください。

内田:

大学を卒業して最初に入った映像制作プロダクションでは、コマーシャルや学術映画、テレビ番組など、映像に関わるあらゆる仕事を経験しました。企画から制作まで幅広く携わる中で、「自分が本当にやりたいドキュメンタリーを、基礎から学びたい」という思いが強くなり、30歳でアメリカの大学院へ留学。帰国後に現在の会社へ入社して以来、四半世紀以上に渡りテレビ番組の制作一筋でやってきました。
中でも最も思い入れがあるのが、自ら立ち上げたNHK WORLD JAPAN(国際放送)の番組『CYCLE AROUND JAPAN』です。外国人サイクリストが自転車で日本各地を巡るこの番組では、自転車だからこそ出会える絶景や、地域の人々との豊かな交わりが鮮やかに浮かび上がってきます。そんな等身大の旅のスタイルが海外の視聴者の心に深く響き、おかげさまで12年目を迎える人気番組へと成長しました。

©NHK WORLD JAPAN

―GREEN×EXPO 2027への参画が決まった時、どのように感じられましたか。

内田:

実は今年で65歳を迎え、おそらく今回のプロジェクトが私のキャリアにおける最終盤の挑戦になります。思い返せば、前職で最後に携わったのは大阪・花の万博(EXPO’90)の仕事でした。実に30有余年の時を経て、再び万博に関わらせていただいている。この不思議な巡り合わせには少し特別な思いがあります。
その一方で、新たな課題も見えてきました。私がこれまで制作してきたテレビ番組は放送されて終わりですが、テーマ館での展示は半年間、その場に在り続けます。表現の手法も全く異なり、ナレーションやテロップといった言葉による説明には頼れません。来場される方がご自分のペースで進みながら、何かを感じ取れるような空間づくりが求められるのです。プレッシャーは大きいですが、表現者としてこれまで培ってきたものをできる限り投入して、この挑戦を形にしたいと思います。

みんなで育てる『きぼうの樹』

―テーマ館では、どのような展示を目指していますか。

内田:

地球が安全に保たれるための限界点を示す「プラネタリー・バウンダリー」という指標では、すでに9つのうち7つの項目で限界を超えていることが明らかになっています。地球環境は今、まさに危機的な状況にあるのです。楽観視できない状況下で開催されるGREEN×EXPO 2027だからこそ、展示を担当させていただく私たちは、みなさまを単なる来場者ではなく、共に地球の未来をつくる「参加者」としてお迎えしたいと考えました。
そんな折にテーマ館を統括する杉山ディレクターから教えていただいたのが、「シードペーパー🄬」です。そこから浮かび上がってきたのが、植物の種が漉き込まれたこの紙を持ち帰って水をやり、成長過程を写真に収めて投稿していただくという参加型のプロジェクトでした。そうして写真となって舞い戻った一枚一枚が集まりながら、テーマ館のシンボルツリー『きぼうの樹』を成長させていくのです。

大上段から「環境を守りましょう」と伝えるつもりはありません。私たちがご提供するのは、毎日水をやり、自分の手で花を咲かせるという体験です。お一人おひとりが植物と向き合うこの体験を、地球の未来について自分事として考えていく第一歩にしていただければと願っています。

―シードペーパーには深いメッセージが込められているそうですね。

内田:

実はシードペーパーそのものが、「一度役割を終えたものに、新たな命を吹き込む」というメッセージを持っています。
原料は、出展予定の企業や団体から提供いただいたシュレッダーゴミ。それを手漉き和紙の職人さんが種を漉き込みながら再生し、さらに印刷やカット、組み立てといった工程を、障害のある方々が担っています。伝統工芸の継承を支え、福祉的な雇用を生み出し、最後は花を咲かせて土に還っていく。この循環は、私たちがテーマ館で表現したい「サーキュラーエコノミー(循環経済)」の縮図そのものです。

手渡されたこの一枚が、みなさまの日々に寄り添い、小さな驚きや喜びを運ぶ存在になってくれると嬉しいですね。

内田昭彦の写真

NHKグローバルメディアサービス
プロデューサー

内田昭彦

1993年入社。以来、数々の報道系ドキュメンタリー番組の制作に従事。2014年NHK WORLD JAPANの紀行番組『CYCLE AROUND JAPAN』を立ち上げる。2027年国際園芸博覧会のテーマ館事業では、「植物と人間のつながり」を表現する展示の企画・制作を担当。キャリアの集大成として、テレビ番組とはまたひと味違った「展示」という形での表現に挑んでいる。

取材メモ

故郷で芽吹くきぼうの種

キャリアの節目を迎えようとしている今、内田さんが足繁く通うのは故郷の伊豆です。見渡せば山、川、そして海。ここで育った一人として、東日本大震災は決して他人事とは思えなかったと振り返ります。
煮え切らぬ思いを胸に飛び込んだ地元のボランティア団体。海岸の清掃活動で目の当たりにしたのは、過疎化が進む里山から押し寄せた、大量の流木や土砂でした。撤去に重機が必要になるほどの事態に、ただ息を呑むしかなかったといいます。
美しい自然は、あたりまえにそこにあるものじゃない――。
まずは自分にできることからと仲間たちと続けてきた耕作放棄地の草刈りは、米作りへと発展。育てたお米は、地域の給食センターや子ども食堂へと届けられ、未来の笑顔に貢献しています。

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シードペーパーから『きぼうの樹』を育てる。その先にはいったいどんな「明日の風景」が待っているのでしょうか。内田さんのドキュメンタリーは、その大切なヒントを私たちの心に灯してくれているようです。
(取材・文:結城耀子)