インサイド・ヒーローズ

vol.10

理想を形にする「骨組み」の美学

林 将利の写真

株式会社梓あずさ設計 構造部門 構造部
エグゼクティブダイレクター/チーフエンジニア/構造設計一級建築士

林 将利 はやし まさとし

プロフィール

ご来場いただくみなさまへ

テーマ館では展示はもちろん、ぜひ建築そのものにも目を向けてみてください。積み木のように様々な角度で組み上げられている部材は、高強度で環境にやさしいCLT(直交集成板)という木材です。それらがどのようにして互いを支え合い、複雑な空間を形づくっているのか。その構造を紐解くように眺めながら、これからの木造建築の可能性に思いを馳せていただけたらうれしいです。

自由な発想に、確かな構造を

―構造設計とは具体的にどのようなお仕事なのでしょうか。

林:

意匠設計者が思い描くイメージを具現化することが、構造設計者の役割です。建築の骨組みを設計し、それが現場で図面通りに組み上がるフェーズまでを監理します。

人々が利用する空間である以上、地震や台風等の自然災害に対する構造安全性の確保は欠かせません。様々な与条件や制約の中で常にデザインを調整しながら、最終的にどこまで当初の理想やイメージに近づけられるかという点も、私たち構造設計者の腕の見せどころです。表に出ることは少ない仕事ですが、建築を支える「縁の下の力持ち」として、やりがいと誇りを持って取り組んでいます。

意匠設計者と対等に協働するという視点

―なぜ、意匠設計ではなく構造設計の道を選ばれたのですか。

林:

幼い頃、住宅の意匠設計を手がけていた父に連れられて、建築現場を訪れたことがありました。車から降りて現場の周囲を歩き回ったり、図面やスケッチを広げて打ち合わせをする父の背中を眺めたりしながら、「かっこいいな」「こうやって家が建つんだな」と幼心に感じていたことを覚えています。

そうした原体験もあってか、やがて自分も意匠設計者を目指して早稲田大学の建築学科へ進学することに。友人でありライバルでもある同世代の方々と切磋琢磨しながら設計課題に取り組んでいく中で、「このまま同じ土俵で勝負しても、トップにはなれないのではないか」という考えを抱くようになりました。

そんな折、第一線で活躍する意匠設計者とタッグを組み、構造設計の立場から建築を創造する恩師の姿を見て、視点が大きく変わります。同じプレイヤーとして競うのではなく、対等に協働できるパートナーになればいい――そう思い至ったことが、構造設計の道へ進む決め手となりました。

―キャリアの原点となったプロジェクトを教えてください。

林:

入社1年目の秋頃、茨城県つくばみらい市に新設される小学校の構造設計を担当することになりました。最初に手がける建築は、体感したことがあるイメージしやすい空間の方がいい――そう考えていた私には理想的な仕事でした。ところが、いざ蓋を開けてみると、意匠設計者のイメージは従来の学校とは異なる「新しい学校の形」だったのです。

▲つくばみらい市立陽光台小学校の外観写真(提供:梓設計)

木のぬくもりを感じられるハーフオープンな学習空間と、それを実現するための木造と鉄筋コンクリート造を組み合わせたハイブリッドな構造計画。会社としても大きな挑戦でした。まだ実務に不慣れだった私にとっては、まさに未知の領域。手探りで図面や構造解析モデルに向き合う日々は決して容易ではありませんでした。

それでも死に物狂いでこの小学校と向き合い、最終的には自分の構造設計を形にできたことが確かな自信につながりました。建築への愛着やプロとしての責任感を育んだこの経験は、間違いなく今の私の礎となっています。

▲光と緑が交錯する、梓設計の開放的なオフィス

前例なきデザインへの挑戦

―テーマ館の設計には、どのような思いで臨まれましたか。

林:

デザイン監修を担当されている隈(くま)研(けん)吾(ご)建築都市設計事務所さんの完成予想パースを目にしたときは、その既視感のない形にまず驚きました。まるで「積み木」のように、自由に積層された木部材がそのまま建築となっており、図面を見ても基軸となるX・Y軸は見当たらず、直角ではない様々な角度で構成されていたのです。技術的なハードルの高さを直感的に感じつつ、チャレンジせざるを得ない責務のような思いが沸々と湧いてきました。

▲「テーマ館」完成予想パース(提供:隈研吾建築都市設計事務所)

テーマ館は園芸博覧会終了後も残る常設の建築物であるため、防火・耐火や避難経路等、建築基準法上の様々な条件を満たす必要があります。当然、構造の安全性も証明しなければなりませんが、前例のない形ゆえに、従来の構造計算方法ではその裏付けが取れませんでした。そこで、有識者の方々や金物メーカーさん等と多くの議論を重ね、関係者の皆様のご協力のもとで実物大の構造実験を実施させていただきました。数多くの実大実験から確かなデータを一つ一つ積み重ね、それらを構造計算に反映することで大臣認定を取得。タイトなスケジュールの中、なんとか着工へと繋げることができたのです。

現場でも苦労が絶えませんでしたが、施工者さんからの施工性が考慮されたよりよい提案を都度受けながら、構造設計者として柔軟に対応していくことを心がけました。施工者の皆様の多大なる努力により、着実に積層されていくCLT。完成予想パース通りの前例なき建築を目にしたときは、本当に感無量でした。

▲「テーマ館」モックアップ完成時の集合写真(提供:大林組)

意匠設計者の妥協のないデザインに応えるために重ねた試行錯誤は、結果としてエンジニアリングの発展にもつながりました。構造設計者として、木造建築の可能性を未来へ広げる一端を担えたことを大変光栄に思っています。

林 将利の写真

株式会社梓あずさ設計 構造部門 構造部
エグゼクティブダイレクター/チーフエンジニア/構造設計一級建築士

林 将利

1987年東京都生まれ。2010年早稲田大学理工学部建築学科卒業。2012年早稲田大学大学院創造理工学研究科建築学専攻修士課程修了。同年、株式会社梓設計入社。数々の建築を手がけ、2027年国際園芸博覧会ではテーマ館及び園芸文化館の構造設計を担当。意匠設計者の自由な発想に寄り添いながら、その具現化を支えている。

取材メモ

緑のある豊かな暮らし

構造設計のプロとして数々の木造建築と向き合ってきた林さん。自然とのふれあいを大切にしたい――その思いは、日々の暮らしの中にも息づいています。
自宅のベランダで始めた家庭菜園では、子どもたちの学びや成長につながればとの願いを込めて、ミニトマトを育てているのだとか。収穫した実を親子で味わうひとときは、休日のささやかな楽しみ。「次はスイカづくりを」と新たな計画も温めているそうです。

  • 取材メモの写真
    ▲家庭菜園写真

GREEN×EXPO 2027が目指すのもまた、人と自然が寄り添う明日の風景。私たちが思い描く豊かさの原点は、身近な植物と過ごす日常にあるのかもしれません。
(取材・文:結城耀子)